アームストロング砲

 
石井俊雄
石井(浩)君のメールを見て、新たに、昔読んだ司馬遼太郎の「アームストロング砲」を読み返してみた。 それから少しだけ抜粋してみる。
 
閑叟はアメリカの内乱(南北戦争)で、砲身の内部に溝を入れた大砲が両軍によってつかわれてるという情報を掴んだ。 砲身の内部に溝(施条)が入っておれば発射される弾丸に回転が生じ、弾道が外れず、遠方へ飛ぶ。 兵器学上、驚天動地の発明である。
「それをもっと調べよ」
閑叟は命じた。文久2年(1862年)のことだ。
・・・
やがて、
「その新式砲は失敗であった」
という情報を得た。
両軍の溝切り大砲(アームストロング砲のこと)は戦場のいたるところで破裂し、味方の砲手を死傷せしめた。 この南北戦争中、両軍の施条砲のうち168門が砲身破裂をおこした。
閑叟は、その話に昇奮した。
「その危険な砲がほしい」
と、彼はいった。言うだけでなく、藩の製砲技術者に研究を命じた。
閑叟には哲学があった。「進歩はつねに危険を伴うものだ」という一事である。
 
以上、司馬遼太郎からの抜粋だが、このようにして佐賀藩は奮励努力の末、幕末において、稀有の兵器製造能力と洋式軍をもつにいたった。
そして、幕臣3000名からなる彰義隊と官軍とのあいだで起こった上野戦争において、佐賀藩が持ち込んだアームストロング砲が戦に決着をつけた。
戦において、アームストロング砲が据えられたのは本郷台の加賀屋敷(今の東京大学)、東端の塀にのぼると、目の下が崖になっており、 その崖下の向こうに不忍池があり、池のむこうに上野の森が見えた。
命令が下って砲撃が始まった。尖頭弾が上野山中の吉祥閣に命中し、一瞬で吹っ飛んだ。更に、別の砲も咆哮し、中堂を粉砕し、火炎をあげさせた。 二門それぞれ六弾を打ち終わったとき、彰義隊は壊滅し、戦はうそのように他愛なく終結した。
かくて、閑叟とその洋学藩史の苦労も、たった十二発の砲弾で象徴され、完結した。 と書かれている。
 
この後、佐賀藩兵がどのように戦ったか知らない。 しかし、圧倒的な戦力でもって、泥沼化しかねない内戦状態を終結させる上で、大きな貢献をしたと思う。 改めて、閑叟公の偉大さに打たれたことだった。
それにしても、小生が感心するのは、「進歩はつねに危険を伴うものだ」という言。 思うに、原発でこれだけのことを言った政治家がいただろうか。 また、専門家も。 これは、簡単だが中々言えない言葉だ。 これを、誰に教えられるでもなくすっと言えたこと、これが偉大さを表彰していると思う。
そんなわけで、その大砲を撃った場所、一目見て見たい気がした。
 
以上、短文を書いたが、これは、初めは浩君のメール(2/11)への返信のつもりで書いてみたが、段々、長くなったので、HPに掲載することにしたもの。 その内、行ってみよう。そして、疲れたらお茶でも飲もう。 そういえば、昨日、テレビで、文京区目白坂にある「関口フランスパン」を紹介していた。 フランスパンの老舗だそうだ。そこは、喫茶室も付いているので、好適かも知れない。 早稲田も近いし。
 
 
あとがき
色々調べると、司馬遼太郎の「アームストロング砲」のこの砲への評価は過大だという記事もあるようだ。 しかし、佐賀藩が、幕末において洋式軍備に関し果敢に挑戦したことは事実であり、「アームストロング砲」の評価が過大すぎるとの評は、 後出しジャンケンのようなもの、司馬遼太郎はしっかりこのことは念頭において書いたことだと思う。
それから、ネットで調べている内、驚きの記事を見つけたので書いておく。
 
アームストロング砲の活躍
英国は第二次のアヘン戦争(1856年)でアームストロング砲を広範囲に使用し、大いに効果を挙げた。 通訳のロバート・スウィンホー (Robert Swinhoe) は、英国が北塘 (Beitang) の中国の要塞を攻めた後に次のように報告している。
 
多くの死んだ中国人が大砲の周りに横たわり、ある者はひどく引き裂かれていた。 壁はタタール人の砲撃手にはほとんど防護とならなかった、 我々のアームストロング砲が浴びせる破壊的な砲火に対して長時間の間持ちこたえることができたことは驚くべきことであった。 しかし、一度ならずとも、哀れな奴が脚を大砲に結び付けられているのを目撃することになった。
 
タタール人は、敵前逃亡が出来ないように脚を大砲に結び付けられていたものだろう。 何だか、ローマ時代の奴隷を見るようだ。 40年くらい前、チャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」という映画を見たが、その中で、ガレー船の漕ぎ手となった奴隷は、海戦時、 パニックになって持ち場を離れることが出来ないよう漕ぎ手の席に鎖で繋がれていた。あれと同じことが十九世紀になっても行われていたとは驚きだ。
 
 
 
 
 
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